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Last UP Date: 2006年7月31日

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月刊プチ通信 2006年8月号

残る物と失せる物

淘汰される事の危険性

僕の仕事は主に表現活動を生徒さんに教える事と、ホームページの管理。
ホームページの管理は自分のサイトもだけれど、依頼されて制作&メンテナンスしてるサイトもいくつかある。
僕はこの仕事を始める前は、WEBデザインの仕事をしていたが、1日中パソコンの前で貼り付いて、 脳みそまでデジタルになるんじゃないかと思ったくらいだ。

しかし、基本的に立体を勉強してきた僕はアナログへの執着が強い。
デジタルと言うのは日本語に訳すとどうなるのか判らないが、個人的には“数値で置き換えられた”とか“数値で置き換えられる” とかになるんだと思ってる。 それって複製が容易だと言う事、大量生産が可能でコストを抑えられるから質の高い安価な商品を生産できるって事だ。 それを証拠に100均なんかのお店には100円には見えない商品が並ぶ。
そういうデジタルな世界で1日中、365日過ごしているとアナログへの執着が一層強くなる。

僕は元々マニュアルカメラや万年筆などのアナログ的な物に興味があった。
マニュアルカメラは専門じゃないから判らないが、フィルムに焼き付く瞬間の問題なのか、連続で撮っても1枚1枚表情が違う。 これはデジカメでは1眼デジカメでも出ないと思ってる。
万年筆も一定の線ではない、力の入れ方やペンの角度で微妙に変わる線の太さが魅力だ。 そして下手くそな字も少しマシに見える・・・これは余談だが・・・。

大量生産、大量消費の大流行の現在は僕の愛するアナログチックな物はどんどん失せる。 ちょっとしたアナログブーム的なものが無いわけでも無いが、そんなものは極々一部。
そこには不安定で遊びのある形よりも、整理された形のほうが綺麗と感じる感じ方の問題もあるだろう。 例えば、食器などは○○焼きのベコベコした形よりも、型を使ったビシッとした形の食器の方が綺麗に見えたり、 収納に便利だったりで人気だ。

そんな中で、アナログカメラ界では、コニカミノルタのカメラ事業からの完全撤退や、 ニコンのフィルム以外のフィルムカメラ事業からの撤退が発表された。
万年筆では、老舗のモンブランがちょっとしたアナログブームに乗ったのかどうかは判らないが、 小売店での販売を制限し、直営店のみの販売となって、万年筆(特にモンブラン)は一般庶民の視界から無くなろうとしている。

僕は今日万年筆を購入した。
購入先は万年筆好きなら聞いた事のあるお店“フルハルター”だ。
この記事を7月31日に書いていて、そのお店に行ったのも今日なのでお店の名前は許可を取っていないので出せないが、 許可が取れたらお知らせしようと思う。(この記事を公開した翌日に了解を頂きました。)

そのお店の主人森山さんは万年筆を販売する際には、必ずその人の手のサイズ、書き癖、持ち位置などを考慮に入れてペン先をその人仕様に研ぐのだ。 そして、基本的にその人に合った物、森山さん本人が使って満足できる物を勧める。それでいて購入時の研ぎ出し料金は取らないのだ。 そこには「その人に合った物しか売りたくない」「購入するからには一生使ってもらえるモノを売りたい」と言うこだわりがある。

しかし、自分の研いだ物が本当にその人の手に合うかどうか、商品を渡す時はいつも緊張すると言う。森山さんの言葉を拝借すれば、 「いくら一流の料理人が一流の食材を使って料理を作っても万人が美味しいと思う事などあり得ない。だから渡す時は、『素晴らしい!!』 とは思われないまでも、『まぁ〜研いだ方が良かったかな』くらいに思ってもらえたら良いと思ってる。」と言う。
これは僕らにも通じるところがあって、木彫や石彫などは、大自然の恵みを殺して作品にするわけで、 木彫なんかは「お前の作品になるくらいなら山に生えてた方が魅力的だ。」なんて良く言われる。

問題なのは、このペン先を研げる人間はもう次の代が居ないらしい。
その理由は単純。そんな事を企業がやって商品を作っていたら、万年筆が1本いくらになるか判らない。 まぁ昔は当たり前に手作りだったはずだが、いつしか万年筆メーカーが機械を導入して低コストで商品化をしたのだろう。 同じような物が安く買えるなら当然安い方が売れるわけで、価格競争の中、各メーカーも機械化(デジタル化)して来たのだろう。 そして、ただでも高価な万年筆を、さらにお金を掛けてペン先の調整をするなんて、よほどの裕福層か、こだわりのある人だけだ。
実際僕も、研ぎ代が別途ならフルハルターでは購入できなかった。

しかし、この僕仕様に研がれた万年筆のなんと書き心地の良い事か!!

ハッキリ言って別物である。ここまで違うなら多少お金を掛けても研ぎたい人は多いのではないだろうか? 僕自身も、今回購入したペリカンの前はモンブランのペン先Mを使用していたが、これが妙に引っかかる。 金額次第では研ぎだけでもお願いしたいと思うほどだ。

この素晴らしい技術をこの世界から無くしてしまっていいのだろうか?
僕は帰りの電車内で、「森山さんが居なくなったらこの書き心地は手に入らないのか。僕が将来多少金銭的に余裕が出た時に、 もう少し立派な万年筆を購入できたとして、物は購入できてもこの書き心地は手に入らないのか。 万が一宝くじが当たって3億円を手に入れても、このペン先は入手できないかも知れない。」そんな事を考えていたら、 とてつもなく大事なものを失いつつある事に気が付いた。

森山さんも言っていたが、数えられないほどの職業が淘汰され、この世から消えていったはずだ、 きっとその中には現在も一部で求められているような物もあった筈だ。 だから今、この技術だけは守らなければいけないような気がする。

便利、流行、見栄・・・それとは別の世界をたまに覗いて見るのも大切な事だと僕は思う。
突然変異と自然淘汰による進化の道は人類に選択の余地は無いだろうが、職業や技術の淘汰は人間がある程度選択する事が可能だ。 そしてその為には、万年筆に触れるのではなく、後継者を育成するのでもなく、 もっと僕たち一人ひとりが、日常の視界の方向を違う方向へと向けることでは無いだろうか。
何事も何物も、無いよりあった方がいいだろうし、できないよりできた方が良い。

だがしかし、なんとも皮肉なのは、この万年筆専門店フルハルターが生業として成立するきっかけには“ホームページ”と言うなんともデジタルな力が関与していた点である。

共存、共栄・・・アナログとデジタルの間でもこの言葉が成立する時代が来る事を祈って止まない・・・。

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